配当所得は確定申告によって有利になる?不利になる?

本記事では、上場株式等の配当所得について、確定申告による住民税等への影響を解説していきます。

税額の計算方法による相違点

まずは、税額の計算方法による相違点を見ていきます。

税額の計算方法

上場株式等の配当所得には、税額の計算方法が3つあります。

計算方法確定申告内容
総合課税する他の所得と合算して、税額を計算する
申告分離課税する他の所得と分離して、税額を計算する
申告不要しない確定申告をせず、税額を計算する

総合課税と申告分離課税は確定申告が必要ですが、申告不要は確定申告が要りません。
また、総合課税は他の所得と合算して税額を計算しますが、申告分離課税は合算しません。

計算方法別の税率

税額の計算方法別の税率は、下記の通りです。

計算方法所得税等住民税合計
総合課税5%~45%10%15%~55%
申告分離課税15.315%5%20.315%
申告不要15.315%5%20.315%

(注)所得税等は、所得税と復興特別所得税の合算です。

総合課税が累進課税(15%~55%)であるのに対し、申告分離課税と申告不要の税率は一律(20.315%)となっています。

計算方法別のその他相違点

税額の計算方法別のその他相違点は、下記の通りです。

計算方法配当控除損益通算 所得算入
総合課税ありなしされる
申告分離課税なしありされる
申告不要なしなしされない

配当控除

総合課税には、配当控除があります。
配当控除とは、配当所得の金額に応じて税額が控除される制度です。

配当控除:配当所得×控除率

なお、配当控除の控除率は、課税所得等の金額によって変わります。

(剰余金の配当等における配当控除率)

課税所得等所得税住民税
1,000万円以下10%2.8%
1,000万円超5%2.8%

(注1)課税所得等は、配当所得とその他の所得の合算です。
(注2)証券投資信託の収益の分配金は、控除率が変わります。

損益通算

申告分離課税は、上場株式等の譲渡損失と損益通算ができます。
この場合、損益通算に応じた源泉徴収額が還付されます。

(前提)

  • 剰余金の配当等:10万円(源泉徴収額:20,315円)
  • 上場株式等の譲渡損失:30万円

(計算)

  • 損益通算:10万円<30万円により、10万円
  • 還付金:20,315円

所得算入

総合課税と申告分離課税は、確定申告により、配当所得が所得に算入されます。
所得に算入されると、住民税や国民健康保険料の計算に影響があります。

(前提)

  • 配当所得:100万円
  • 所得控除:50万円
  • 申告分離課税

(計算)

  • 住民税:(100万円ー50万円)×10%=5万円
  • 国民健康保険料:100万円×約12%=約12万円

上記の場合、申告不要と比べて、税金等が約17万円増加します。

課税所得695万円未満だと総合課税が有利?

課税所得が695万円未満だと、総合課税が有利と言われることがあります。
これは、累進課税である総合課税の税率が、申告分離課税や申告不要の税率を上回るラインです。

(所得税の税率)

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円

判定の計算方法

では、実際に計算してみます。

(所得税)

計算方法所得税配当控除合計
総合課税23%10%13%
申告分離課税15%なし15%
申告不要15%なし15%

(住民税)

計算方法住民税配当控除合計
総合課税10%2.8%7.2%
申告分離課税5%なし5%
申告不要5%なし5%

(合計)

計算方法税率判定
総合課税20.2%(13%+7.2%)不利
申告分離課税20.0%(15%+5%)有利
申告不要20.0%(15%+5%)有利

このように、課税所得が695万円以上(税率が23%以上)になると、申告分離課税や申告不要が有利となります。

計算の注意点

上記は、計算をシンプルにするため、以下の前提があります。

  • 剰余金の配当等は1,000万円以下である
  • 証券投資信託の収益の分配金はゼロである
  • 所得税の控除額は考慮しない(20%の場合、427,500円)
  • 上場株式等の譲渡損失と損益通算はしない
  • 他の所得と通算はしない(総合課税の場合)
  • 国民健康保険料への影響は考慮しない
  • その他

これらの前提と実際の状況が乖離していなければ、問題ありません。
しかし、乖離しているならば、別途、検討が必要です。

まとめ

今回は、上場株式等の配当所得について、確定申告による住民税等への影響をみてきました。
課税所得695万円未満というのは、分かりやすい目安です。
しかしながら、計算の前提を考慮する点にご注意ください。

この記事を書いた人

髙谷 武司

同志社大学卒業後、有限責任監査法人トーマツやハウス食品株式会社、IPO準備企業などを経て、2021年に髙谷公認会計士・税理士事務所を開設しました。

会計や税務はもちろん、経営の相談までできる会計事務所として、皆様のサポートをしております。