中小企業者等における賃上げ促進税制
本記事では、中小企業者等における賃上げ促進税制について解説していきます。
この記事を書いた人

髙谷 武司
同志社大学卒業後、有限責任監査法人トーマツやハウス食品株式会社、IPO準備企業などを経て、2021年に髙谷公認会計士・税理士事務所を開設しました。
会計や税務はもちろん、経営の相談までできる会計事務所として、皆様のサポートをしております。
中小企業者等とは?
賃上げ促進税制は、適用対象の規模等によって、税額控除率等が変わります。
このうち、中小企業者等の対象者は、以下の通りです。
【中小企業者等】
- 法人(※)
- 資本金の額または出資金の額が1億円以下
- 資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下
- 農業協同組合等
- 個人事業主
- 常時使用する従業員の数が1,000人以下
(※)同一の大規模法人に発行済株式の2分の1以上を所有されている法人などを除く
対象期間
令和6年4月1日以降の対象期間は、以下の通りです。
【対象期間】
- 法人:令和9年3月31日までの間に開始する事業年度
- 個人事業主:令和7年~令和9年の各年
適用要件
賃上げ促進税制には、必須要件と上乗せ要件があります。
【適用要件】
- 必須要件
- 給与等支給額が増加している
- 上乗せ要件
- 教育訓練費が増加している
- くるみん認定等がされている
必須要件(給与等支給額)
前年度と比較して、給与等支給額の増加が必須要件となっています。
また、その増加率によって、税額控除率も変わります。
【給与等支給額】
給与等の増加率 | 税額控除率 |
---|---|
+1.5% | 15% |
+2.5% | 30% |
給与等の増加率
給与等の増加率は、下記の算式により計算します。
【給与等の増加率】
増加率 =(雇用者給与等支給額 ー 比較雇用者給与等支給額)/ 比較雇用者給与等支給額
雇用者給与等支給額
雇用者給与等支給額は、損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。
なお、大企業や中堅企業とは異なり、継続雇用者という制限はありません。
そのため、雇用者の増加による給与等の増加でも要件を満たします。
【注意点】
- 使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれません。
- 雇用安定助成金などの補填額がある場合には、給与等の支給額から控除します。
比較雇用者給与等支給額
比較雇用者給与等支給額は、前事業年度における雇用者給与等支給額をいいます。
月数が異なる場合
決算期の変更や前事業年度が設立初年度など月数が異なる場合は、給与等の支給額を調整する必要があります。
上乗せ要件(教育訓練費)
前年度と比較して、教育訓練費が増加している場合、税額控除率が上乗せされます。
【教育訓練費】
訓練費の増加率 | 税額控除率 |
---|---|
+5% | +10% |
訓練費の増加率
教育訓練費の増加率は、下記の算式により計算します。
【訓練費の増加率】
増加率 =(教育訓練費の額 ー 比較教育訓練費の額)/ 比較教育訓練費の額
教育訓練費の額
教育訓練費の額は、損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する教育訓練費をいいます。
【注意点】
- 役員や個人事業主、及びその特殊関係者などは除きます。
- 教材等の購入や製作に要する費用は含みません。
- 教育訓練費の額に係る明細書の作成が必要となります。
比較教育訓練費の額
比較教育訓練費の額は、前事業年度における教育訓練費の額をいいます。
月数が異なる場合
決算期の変更や前事業年度が設立初年度など月数が異なる場合は、教育訓練費の額を調整する必要があります。
上乗せ要件(くるみん認定等)
子育てとの両立・女性活躍支援として、以下のいずれかの要件を満たした場合、税額控除率が5%加算されます。
【くるみん認定等】
- 適用事業年度中に、以下を取得する
- くるみん認定
- くるみんプラス認定
- えるぼし認定(2段階目以上)
- 適用事業年度終了の時において、以下を取得している
- プラチナくるみん認定
- プラチナくるみんプラス認定
- プラチナえるぼし認定
税額控除限度額
税額控除限度額は、下記の算式により計算します。
【税額控除限度額】
税額控除限度額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 × 税額控除率(15%~45%)
(※)法人税額または所得税額の20%が上限
控除対象雇用者給与等支給増加額
控除対象雇用者給与等支給増加額は、下記の算式により計算します。
【控除対象雇用者給与等支給増加額】
控除対象雇用者給与等支給増加額 = 雇用者給与等支給額 ー 比較雇用者給与等支給額
(※)調整雇用者給与等支給増加額が上限
税額控除限度超過額の繰越し
税額控除限度額の内、控除しきれなかった金額は、5年間の繰越が認められています。
【注意点】
- 未控除額が発生した年度に「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を提出する必要があります。
- 繰越税額控除を受けようとする事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加している必要があります。
具体例
【具体例】
要件 | 前事業年度 | 当事業年度 |
---|---|---|
給与等支給額 | 5,000 | 5,200 |
教育訓練費 | 100 | 120 |
くるみん認定等 | - | 取得 |
【給与等の増加率】
(5,200 ー 5,000)/ 5,000 = 4%
増加率は+2.5%を超えるため、税額控除率は30%となる。
【訓練費の増加率】
(120 ー 100)/ 100 = 20%
増加率は+5%を超えるため、税額控除率は+10%となる。
【くるみん認定等】
当期に取得しているため、税額控除率は+5%となる。
【税額控除限度額】
(5,200 ー 5,000)×(30%+10%+5%)= 90
まとめ
今回は、中小企業者等における賃上げ促進税制について見てきました。
中小企業者等は、雇用者の増加による給与等の増加でも要件を満たします。
そのため、賃上げしていない場合でも、確認することが大事でしょう。