労働保険料の会計処理はどうする?

本記事では、労働保険料の会計処理について解説していきます。

この記事を書いた人

髙谷 武司

同志社大学卒業後、有限責任監査法人トーマツやハウス食品株式会社、IPO準備企業などを経て、2021年に髙谷公認会計士・税理士事務所を開設しました。

会計や税務はもちろん、経営の相談までできる会計事務所として、皆様のサポートをしております。

労働保険とは?

労働保険とは、労働者災害補償保険(以下、労災保険) と雇用保険の総称です。
保険給付は別々に行われていますが、保険料の納付等については一体のものとして取り扱われています。

また、労働保険料は、事業主と従業員で負担しますが、両者の負担割合は異なります。
具体的には、労災保険は全額、事業主負担となりますが、雇用保険は従業員も負担します。

(労働保険料の負担)

保険の種類事業主負担従業員負担
労災保険-
雇用保険

年度更新

労働保険料は、年度当初(6/1~7/10)に概算で申告・納付し、翌年度の当初に精算します。
また、上記とともに、当年度の概算保険料を併せて申告・納付します。
これを「年度更新」と言います。

(年度更新)

  • 前年度の概算保険料と確定保険料の精算
  • 当年度の概算保険料の納付

年度更新は、6月1日~7月10日の間に手続きを行います。

なお、概算保険料が40万円以上の場合は、3回に分割して納付することができます。
(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円以上)

(分割納付)

内容第1期第2期第3期
期間4/1~7/318/1~11/3012/1~3/31
納期限7/1010/311/31

労働保険料

労働保険料は、賃金総額に保険料率を乗じて計算します。

(労働保険料)

労働保険料=賃金総額 × 保険料率

賃金総額

計算期間は、4月1日~3月31日の1年間です。

当年度の概算保険料は、上記計算期間の見積り賃金総額を使用します。

保険料率

労働保険料の料率は、事業の種類によって変わります。
ここでは、令和7年度の飲食店における料率を例示します。

(例)令和7年度の保険料率(飲食店の場合)

保険の種類保険料率内、事業主負担内、従業員負担
労災保険3 / 1,0003 / 1,000なし
雇用保険14,5 / 1,0009 / 1,0005.5 / 1,000

損金算入の時期等

労働保険料の損金算入の時期等は、以下の通りです(法基通9-3-3)。

(労働保険料の損金算入の時期等)

保険料等損金算入の時期等
概算保険料申告書を提出した日又は納付した日
確定保険料に係る不足額申告書を提出した日又は納付した日(未払金計上も可能)
確定保険料に係る超過額申告書を提出した日

労働保険料の会計処理

労働保険料の会計処理は、下記3つの方法が挙げられます。

(会計処理の方法)

  1. 法定福利費のみを使用する
  2. 立替金を使用する
  3. 前払費用を使用する

以下、会計処理ごとに仕訳例を見ていきます。

(前提)

項目保険料内、事業主負担内、従業員負担
概算保険料44,00032,00012,000
確定保険料49,50036,00013,500

法定福利費のみを使用する

この方法は、法定福利費のみを使用する簡便的な方法です。
会計・税務的に正しい処理とは言えませんが、中小零細企業では一般的に採用されています。

(納付時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法定福利費44,000普通預金44,000

納付した金額を法定福利費に計上します。

(給与支給時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
給与xxx普通預金xxx
法定福利費1,000

従業員負担分について、法定福利費のマイナスとします。

(確定時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法定福利費5,500普通預金5,500

概算保険料との差額を法定福利費として計上します。

立替金を使用する

この方法は、国税庁が例示している方法です。
そのため、税務上、問題となることはありません。

法人税法基本通達
(労働保険料の損金算入の時期等)
9-3-3
(1) 概算保険料 概算保険料の額のうち、被保険者が負担すべき部分の金額は立替金等とし、その他の部分の金額は当該概算保険料に係る同法第15条第1項に規定する申告書を提出した日(同条第3項に規定する決定に係る金額については、その決定のあった日)又はこれを納付した日の属する事業年度の損金の額に算入する。

ただし、会計上は、費用の期間帰属に問題があります。

(納付時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法定福利費32,000普通預金44,000
立替金12,000

納付した金額のうち、事業主負担分は法定福利費とし、従業員負担分は立替金とする。

(給与支給時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
給与xxx普通預金xxx
立替金1,000

従業員負担分について、立替金を取り崩す。

(確定時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法定福利費4,000普通預金5,500
立替金1,500

概算保険料との差額について、事業主負担分と従業員負担分に分けて計上する。

前払費用を使用する

この方法は、会計期間の損益を適切に計上させる方法となります。

(納付時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
前払費用32,000普通預金44,000
立替金12,000

納付した金額のうち、事業主負担分は前払費用とし、従業員負担分は立替金とする。

(給与支給時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法定福利費2,666前払費用2,666

事業主負担分について、前払費用を取り崩し、法定福利費を計上する。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
給与xxx普通預金xxx
立替金1,000

従業員負担分について、立替金を取り崩す。

(確定時)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法定福利費4,000普通預金5,500
立替金1,500

概算保険料との差額について、事業主負担分と従業員負担分に分けて計上する。

参考

上記3つの処理はすべて、概算保険料をベースにしています。
しかし、実際は月次で賃金総額が確定するにつれて、保険料も確定します。
そのため、月次の法定福利費等を確定額ベースで計上する方法もあります。

まとめ

今回は、労働保険料の会計処理について見てきました。
経理事務の効率化を取るか、期間損益の正確性を取るかで採用する会計処理は異なります。
労働保険料の金額などを考慮して、会計処理をしましょう。